甘い恋飯は残業後に
難波さんは、彼は自分のことを可哀想だと思っているだけだと言った。
冷静に考えてみたら、思い当たる節もある。
彼は仕事でもプライベートでも常に自分を主軸に置いていた。デートの行き先だって、わたしの意見を聞くこともなく全部彼が決めていた。
誠実だと思っていたことも、もしかしたら、わたしに嫌われないようにさえしていれば、最終的には自分の思い通りの展開になると計算してのことだったのかもしれない。
本当にそこまで計算していたとしたら、土壇場で拒否されたのはショックだっただろう。
『お前のことが、好きで……好きで……』
もう、あれが彼の本心かどうかもよくわからなくなってきた。
そう言うなら、どうしてあの時わたしを引き止めなかったのか。
「そもそも、そういう行為は無理にするもんじゃない」
ぼんやり考えていると、隣から低く、力強い声が聞こえた。
「踏み切れなかったから何だっていうんだ」
真っ直ぐに注がれた、視線――。
難波さんから目が離せなくなる。
「俺だったら、別れない」
どくん――と、全身に心臓の音が響き渡った。
「俺だったら、そんなことぐらいで手放したりはしない」
――どうして反応するのよ。
例えば、の話を聞かされているだけだというのに。
「本当に桑原が好きでずっと一緒にいたいと思うなら、無理なことはさせないだろうし、離れないと信用してもらえるように精一杯大事にすると思う」
鼓動は速まり、ドクンドクンと大きな音を立てている。
何か言わなくては。そう思うのに、言葉が頭にひとつも浮かんでこない。