甘い恋飯は残業後に
「桑原、何やってんだー?」
リビングからわたしを呼ぶ声がした。
「は、はい、今行きますっ」
「変なことしてんじゃないだろうな?」
「してません!」
彼の笑い声が聞こえてきた。いつものようなやり取りに救われる。わたしは二度程深呼吸してから、バッグを拾い上げてリビングに向かった。
ソファーの前のテーブルには既にコーヒーが用意されていた。挽き立ての豆の香りが鼻をくすぐる。
「熱いから気をつけて飲めよ」
「……いただきます」
わたしは難波さんの顔を見ないようにして、カップを手にした。
コーヒーを口にする。丁寧に淹れたとわかる味がした。おいしい。
もうひと口飲んで落ち着いたところでふと、わたしは肝心なことを聞いていないことに気がついた。
「あの、そういえばわたしどうして……」
「どうして俺の家に泊まったのか、だろ?」
「……はい」
気まずいこともあって、尚更顔を上げられない。取りあえず手にしていたコーヒーカップに視線を落としてごまかす。