甘い恋飯は残業後に
「大丈夫だ」
難波さんにそう言われると、本当に大丈夫なような気がしてくる。
彼の手が俯いていたわたしの頭にふわりと乗せられた。その瞬間、到着を知らせるアナウンスが流れる。温かい大きな手は、エレベーターの扉が開く前に離されてしまった。
当然の如く、オフィスにはまだ誰も来ていなかった。
そのことにはほっとしたものの、難波さんとこのまましばらくふたりきりだと思うと、違う緊張が体を強張らせる。
わたしは居心地の悪さに「コーヒーでも淹れてきますね」と、給湯室の方へ向かおうとして――難波さんにすぐ呼び止められてしまった。
「コーヒーは今はいい。今日は『Caro』の巡回の日だろ、どうせ向こうで飲むだろうし」
難波さんにそう言われるまで、わたしは今日が巡回の日だということをすっかり忘れていた。いつもなら、週明けの予定は日曜の夜にちゃんとチェックしておくのに。仕事のことを考える隙間もなかったのか、と自分が嫌になる。
しかし、何てタイミングが悪いんだろう。よりにもよって、今日が巡回日だとは。
「朝礼の後、すぐに『Caro』に向かうから。準備しておけよ」
「えっ。朝礼の後すぐ、ですか?」
「そうすれば、何故早く来たのかと訊かれた時の口実にもなるだろ?」