甘い恋飯は残業後に
「はい、これ」
「え……何?」
「暑気払いの、万椰さんの分の会費です」
驚いて、水上ちゃんを見つめる。
「難波さんが『これを桑原に返してやれ』って、あの晩お店を出る前に私のところへ置いていったんですよ」
「難波さんが……?」
水上ちゃんはわたしの手を取り、無理矢理手のひらに封筒を押し付ける。困惑していると、彼女はわたしの耳許に顔を寄せた。
「難波さん、やっぱり万椰さんを追いかけていったんですか?」
「えっ」
虚を衝かれて、動揺する。
「仕事を思い出したから社に戻る、って言っていなくなったんですけど、ちょっと言い訳っぽかったんですよねぇ」
水上ちゃんにしてはめずらしく、言葉の端々にからかいのニュアンスを含んでいる。
「……来てないよ。わたしはあの後ひとりで家に帰ったし。難波さんは本当に仕事だったんじゃないかな」
気を取り直し、わたしは努めて冷静に答えた。
赤裸々な告白をして、泣いて、酔い潰れて、目を覚ましたら難波さんの家だった、なんて言える筈がない。しかも……とんでもないことを口走ったという、余計なおまけつきで。
「えー、そうだったんですか……。絶対、万椰さんを追いかけていったと思ったんだけどなぁ」
当てが外れたのか、水上ちゃんは明らかにつまらなそうにしている。わたしは苦笑しながら「さ、戻るよ」と彼女を促した。