甘い恋飯は残業後に


「はい、これ」

「え……何?」

「暑気払いの、万椰さんの分の会費です」

驚いて、水上ちゃんを見つめる。

「難波さんが『これを桑原に返してやれ』って、あの晩お店を出る前に私のところへ置いていったんですよ」

「難波さんが……?」

水上ちゃんはわたしの手を取り、無理矢理手のひらに封筒を押し付ける。困惑していると、彼女はわたしの耳許に顔を寄せた。


「難波さん、やっぱり万椰さんを追いかけていったんですか?」

「えっ」

虚を衝かれて、動揺する。

「仕事を思い出したから社に戻る、って言っていなくなったんですけど、ちょっと言い訳っぽかったんですよねぇ」

水上ちゃんにしてはめずらしく、言葉の端々にからかいのニュアンスを含んでいる。


「……来てないよ。わたしはあの後ひとりで家に帰ったし。難波さんは本当に仕事だったんじゃないかな」

気を取り直し、わたしは努めて冷静に答えた。

赤裸々な告白をして、泣いて、酔い潰れて、目を覚ましたら難波さんの家だった、なんて言える筈がない。しかも……とんでもないことを口走ったという、余計なおまけつきで。

「えー、そうだったんですか……。絶対、万椰さんを追いかけていったと思ったんだけどなぁ」

当てが外れたのか、水上ちゃんは明らかにつまらなそうにしている。わたしは苦笑しながら「さ、戻るよ」と彼女を促した。


< 188 / 305 >

この作品をシェア

pagetop