甘い恋飯は残業後に
「……あの、朝に水上さんからお金を渡されたんですけど」
わたしは膝に置いていた仕事用のバッグから、お金が入った封筒を取り出す。
「これは、受け取れません」
タイミングよく車が信号で止まり、難波さんはわたしが手にしていたものに視線を向けた。
「どうして」
「どうして、って……週末、散々迷惑をかけたのに、そこまでしてもらったら――」
「週末のことは朝に気にするなって言っただろ」
怒ったような口調で言われ、固まってしまう。何を言えばいいのかわからず黙っていると、難波さんは大きくため息を吐き出した。
「……俺は、桑原に迷惑をかけられたなんて思っていない。桑原の方が俺のことを迷惑だと思っていたんじゃないか?」
「そんなことない! あの晩いろいろ難波さんに聞いてもらえてよかったし……」
興奮してつい、ため口になってしまった。ごまかそうと「救われたんです」と付け足して、敬語に戻しておく。
思わず本音を漏らしてしまったことが恥ずかしくなって、自分が手にしていた封筒に視線を落とす。
刹那、難波さんの左手がハンドルから離されたのが視界の隅に映り、その手がわたしの右手に触れた。