甘い恋飯は残業後に
「万椰さんだから、そんなふうに簡単に言えるんです」
「別に、簡単に言った訳じゃ……」
他の人なら社交辞令で流してもらえても、わたしが言えばこういう空気になると、過去の経験でわかっていた筈だ。だから呑み込んできたのに――。
「私は万椰さんみたいに人に好かれることはそうそうないから、チャンスを一瞬でも逃すまいと必死なんです。いい人がいたらその人に好きになってもらえるように必死で、付き合うことが出来たらもう次はないんだって、とにかくいつも必死なんです」
水上ちゃんは顔を上げて、こちらを向いた。
「万椰さんは“愛され慣れ”してるんですよ」
「……愛され慣れ?」
「この人を逃しても、また次があるだろうって。誰かに好意を持たれるのが当たり前だと思ってる」
彼女の視線には、嫌悪でも侮蔑でも嫉妬でもなく、悲しげな色が滲んでいた。
「誰かが自分を好きになってくれるって、それだけでも凄いことだと思うんです。そして更にその人が自分の好きな人だったら、もうそれは奇跡ですよ」
一気に言い切ると水上ちゃんは小さく息を吐き出して、一瞬躊躇うような素振りを見せてからまた口を開いた。
「万椰さんに好意を持った人達があんな……おかしな行動をとってしまうのは、万椰さんがその“凄いこと”に気づいていないせいもあるんじゃないですか」