甘い恋飯は残業後に


「まだ九時前だぞ。何かあったのか?」

難波さんは自分の腕時計を確認しながら、怪訝そうな顔をしている。

「何もないですよ、単に一次会でお開きになっただけです」

嘘はついていない。水上ちゃんとだって、別に喧嘩をした訳でもない。しいて言うなら、自分の馬鹿さ加減に気づかされたということぐらい。

わたしはすぐに視線をグラスへと移し、叔父さんが注いでくれているワインを眺める。光に透けたボルドー色が綺麗だ。


「宗司がここに来てるから、急いで帰ってきたんだろ?」

叔父さんの茶々に「難波さんが来てるのは知らなかったもん」と言い返しながら、わたしは“いつもの感じ”を必死に思い出していた。

「本当に、何かあったんじゃないんだな?」

「しつこいですよ、難波さん。本当に何もないですって。しつこい男は嫌われますよ」

大丈夫、今日はちゃんと笑えている。そもそも泣くような要素はないんだし。

そう思いながらも、やっぱり彼の方は向けない。


チーズの盛り合わせを持ってきてくれた美桜ちゃんと常連さんの話をしていると、テーブルに置いてあった難波さんの携帯が震えた。


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