甘い恋飯は残業後に
叔父さんはわたしの肩をぽんと叩き、笑みを浮かべた。
「何だかわからんが、失うことを先に考えちゃ駄目だぞ。人生一度きり、悔いなくいけ、だ」
叔父さんの言っていることは、もっともだと思う。
でも、中身のないわたしが全力でぶつかって、もし失ってしまったら?
それ以前に得られなかったら……?
店の入り口の扉が開いて、難波さんが店内に戻ってきた。
わたしの隣に腰掛け、ため息をついたかと思えば、テーブルに肘をついて髪をくしゃりとしている。
その黒髪は見た目よりも柔らかそうに、ふわりと揺れている。いつかのシャワー後の彼の姿を思い出して、胸が小さく騒いだ。
「……どうした?」
「……いえ。難波さんこそ、美杉さんと何かあったんですか?」
「……いや、別に」
『美杉さん』という名前を口にしたら、喉の奥に何かが込み上げてきた。
――多分これ以上、笑えない。
「あの、わたしそろそろ帰りますね」
「さっき来たばかりなのにか?」
「ただ一杯ワインを飲みたかっただけですから」
バッグを掴み、立ちあがる。
「待て。送っていく」
「いいですよ、難波さんはゆっくりしていって下さい」
わたしは彼の方を見ずに、さっさとレジの方へと向かった。
「ったく、聞き分けのない」
吐き捨てるようなセリフが聞こえたかと思えば、難波さんは追い越し際にわたしのバッグを奪った。