甘い恋飯は残業後に
「ちょ……っと、何するんですか!」
「高柳さん悪い、ふたり分つけておいて!」
振り向きざまにそう言って、難波さんは逃げるように店を出ていく。
わたしはあまりのことに呆然としてしまった。
「早く行ってやれ」
叔父さんは扉の前に立ち尽くしていたわたしの肩をトンと叩いた。叔父さんの顔にはいつものからかいの色はなく、穏やかに微笑んでいる。
「……お金、ごめん。明日必ず払うね」
「金のことは気にしなくていいから。ほら、行った行った」
外に出ると、難波さんは店を出たすぐのところに立って空を見上げていた。人のバッグを奪っておいて自分は呑気に空を見上げているだなんてと苛立ちを覚えたが、ついわたしも一緒になって空を見上げてしまう。
「昼間は雨だったのに、星が見えるな」
何で、この人は――。
「……わたしも、さっきここに来る前に同じことを思いました」
言ってから、素直に言わなければよかったと後悔した。だって――自分をアピールしているように思われてしまう。
難波さんはこちらを見て「そうか」と含みのある笑みを漏らした。