甘い恋飯は残業後に
「……あの。バッグ、返して下さい」
「嫌だ」
「嫌だって……そんな子供みたいなこと」
難波さんは、わたしのバッグを持ったまま前を歩いていく。見慣れた筈のワイシャツの後ろ姿が、暗闇の中だというのに目に眩しい。
じっと見つめていると、急にくるりと振り返ったものだから驚いた。
「ちゃんと俺の隣を歩けよ」
そう言って、難波さんはわたしの背中に触れた。彼の手のひらの熱がブラウス越しにも感じられる。どうしよう。緊張で背中が汗ばんでしまいそうだ。
わたしがこんなにも男の人を意識しているなんて、もしかしたら初めてかもしれない。
そんなことを考えているうち、背中にあった手は離されてしまった。
――もっと触れていてほしい。
ふいに湧き上がってきた自分の気持ちに、動揺する。
「本当は何かあったんだろ」
問いかけられて、我に返った。
ため息を吐き出すふりで深呼吸して、自分を落ち着かせる。
「まだ、訊くんですか」
「俺はしつこいからな」
今回は意地でも言わせるつもりだろうか。
「難波さんこそ……美杉さんと何かあったんじゃないんですか?」
訊くつもりのなかった言葉が、思わず口から滑り出てきてしまった。それを訊いたっていいことはないとわかっているのに。
「気になるか?」
「ほ、ほら、難波さんだってそうやってはぐらかすじゃないですか!」