甘い恋飯は残業後に
「俺がオフィスに顔を出した時、ふたりで仲良さそうに話してたから」
「……見てたんですか」
難波さんがオフィスにいた時間は五分もなかったと思うのに、気にかけてくれていたのか。そう思ったら口許がにやけそうになって、慌てて引き締める。
「喧嘩していたんじゃないし、お互い大人ですから……」
干してある布巾を手に取り、洗い終わったカップを拭く。緊張しているせいか、気がつけば同じところを何度も拭いてしまっていた。
「まあ、それもそうだな」
「難波さんは……」
今日どこに行ってたんですか。
そう言いかけて、言葉を呑み込む。
今それを口に出せば、問い詰めているような口調になってしまいそうだったからだ。
「何?」
「……今日はまだ、帰れないんですか?」
わたしは取りあえず、思いついたことを言った。恐る恐る難波さんの方を窺うと、何を思ったのか彼はくすりと小さく笑みを零している。
「これから一件寄らなくてはいけないところはあるけど、九時過ぎには高柳さんの店に行けると思う」
そっか……難波さんはわたしが誘ったと思ったのか。
否定するのも変だけれど、このままなのも居心地が悪い。
そんなことをぐるぐる考えていると――難波さんの手が、わたしの髪に触れた。