甘い恋飯は残業後に
さっきから、心臓はバクバクとうるさく打ち鳴らしている。
難波さんが口を開きかけたその時、給湯室の外に足音が聞こえて、彼はわたしの頬から素早く手を放した。
「とにかく、絶対にいろよ」
小声でそう言って、彼はわたしの頭にポンと手を乗せ、先に給湯室を出ていった。
「……勘弁してよ」
あんな顔を隠していたなんて……反則だ。
わたしはカウンターに掴まりながら、彼の気配を追うように廊下側を見つめた。情けないことに、こんな程度で膝の力が抜けそうになってしまった。
明らかに、ゆうべのキスから難波さんの態度が変わっている。
これをどう捉えればいいのかわからない。
今わたしの胸には、侵してはいけない領域に足を踏み入れたような、背徳感にも似た感情が漂っている。
踏み込むのが怖いから、だろうか。だって、美杉さんとのこともはっきりしていない。
「……あ」
そういえば難波さんに『美食ログ』の話をするのを忘れてしまった。とはいえ、思い出していたところで、聞ける雰囲気ではなかったけど……。
「後で会うから、その時でいいか」
わたしは自分のカップをいつもの場所に置いて、給湯室を後にした。