甘い恋飯は残業後に


ただひたすら歩いて、気がつけばわたしは会社の前まで戻ってきていた。無意識に来た場所が会社だなんて、わたしはどこまで枯れているんだろう。

こんなところでじっとしていても仕方がない。幸い、いつも七時頃には閉まるビルの正面口も今日はまだ開いている。わたしは心を落ち着かせる為、取りあえず会社の中に入ることにした。


「さて……どうしよう」

部署の人間と会ったら何かと厄介だから、自分の部署には行きたくない。


――そうだ、あそこなら。

わたしはエレベーターに乗り、十階のボタンを押した。十階にはリフレッシュスペースという、社員が休憩出来る場所がある。フォレストに移ってからはほとんど利用していなかったから、存在をすっかり忘れていた。

そこは社員がゆっくり休憩出来るようにと、そこそこ広いスペースに自販機やソファー、テーブルと椅子が置かれている。多分、この時間なら打ち合わせで使うこともないだろうし、人がいたとしてもひとりふたり程度だろう。


十階に着いて恐る恐る覗いてみると、利用している人は誰もいないようでほっとする。誰かが来た時の言い訳の為にと、わたしは自販機で缶コーヒーを買うことにした。

静かなせいか、ごとん、とコーヒーが吐き出された音が予想以上に大きくフロアに響き渡る。その瞬間、別の場所からかたりと音が聞こえた。


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