甘い恋飯は残業後に
「……っあ、今何時だ……?」
突然聞こえてきた、寝ぼけたような男性の声に身が縮み上がった。声のした方向を振り返って――わたしは目を見開いた。
「……万椰」
二人掛けのソファーから上半身を起こしていたのは、元カレの青柳拓実。数日前に『綾村』で醜態を見せていた、あの男だ。
まさか、そんなところにいたなんて。こちら側からは背もたれのせいで全く姿が見えなかった。
彼は気まずそうに、視線を逸らす。
「……こんな時間まで、仕事?」
会ってしまったから仕方なく話しかけてきた、という感じだろうか。
確かにこの状況で話をしないのは不自然だ。
「……もう仕事は終わったけど、ちょっと喉が渇いたから」
「……そっか」
ここで話を終えてしまうと、余計に気まずい気がする。わたしは頭をフル回転させて、次の言葉を探した。
「そっちこそ、どうしてここで……?」
「ああ、ここんとこずっと家に帰るの深夜でさ……今日もまだ仕事中なんだけど、あまりにも眠くてちょっとだけ寝るつもりが、結構寝てしまってた」
青柳はがしがしと頭を掻いて、おもむろに立ち上がる。お尻のポケットから小銭入れを出してお金を自販機に入れ、ブラックコーヒーのボタンを押した。またフロア一帯に、ごとんという音が響き渡る。