甘い恋飯は残業後に


「また、千里の言うことを気にしてるのか?」

「気にしてはいないけど、こういうことがあると……ね」


ちょっと、嘘をついた。

本当は兄貴のその言葉を、いつも気にしてしまっている。


おかげでわたしは、今まで付き合った人がいなかった訳でもないのに、失うのが怖くて先に踏み出せず、実は未だ処女のままだ。

――こんなこと、誰にも言えないけど。


一年前、付き合っていた彼と別れたのも、このことが原因だった。
結局失うなら、あの時思い切って踏み出せば良かったのかもしれない……なんて、今更。


「万椰は小さい頃から、千里の言うことを素直に受け取り過ぎなんだよ。姉さんが『お兄ちゃんのいうことをちゃんと聞きなさいよ』ってお前に言い過ぎたのも悪かったよな」

「いくらなんでも、大人になってからは子供の時みたいに真に受けたりしてないから……」

「安心しろ。中身がないのは、お前より千里の方だから」

そう言って叔父さんはまた厨房の中に戻っていった。


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