甘い恋飯は残業後に


若い頃結婚に失敗して、それからずっと独身でいる叔父さんは、わたしたち兄妹を自分の子供のように可愛がってくれている。そんな叔父さんが兄貴のことをこんな風に悪く言うのは、千里の素行に問題があるからだ。


兄貴は俗に言う『イケメン』で、昔から女の子によくモテる。それをいいことに、寄ってくる可愛い女の子をとっかえひっかえして、遊びまくっている最低な男だ。

もう二十九歳だというのに、落ち着く気配もない。


兄貴の言葉が気になるのは、兄貴の女の子の扱い方を見ていて、自分もそうなるんじゃないかとどこかで不安に思ってしまっているからなのかもしれない。

男の基準は兄貴じゃないって、そんな当たり前のこと、よくわかっている筈なのに。



「残念な男ばかり寄ってくるのは、万椰さんに何か問題があるからじゃないですよ」

こちらに戻ってきた美桜ちゃんは、チーズをわたしの目の前に置きながらそう言った。

「そう?」

「この間だって、常連のお客さんでIT関係の会社の社長さんがいるんですけど、万椰さんのこと『綺麗な人だね』って言ってたんです。でもその後『僕には高嶺の花だけど』って」

「高嶺の花ねぇ……」

チーズをひと口齧る。

「意気地がないだけなんですよ、最近の男は。だから万椰さんには、そういうこと何も考えないジコチューか、思い込みの激しい男だけが寄ってきちゃうんだと思いますよ」

見た目はおとなしそうな美桜ちゃんだけど、言う時ははっきりと容赦がない。


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