甘い恋飯は残業後に
『じゃ、そこで待ってろ』
「……えっ?」
『迎えに行く』
まさかの言葉に、心臓が大きく波打つ。
「む、迎えに行くって、難波さん『ラーボ・デ・バッカ』にいるんですよね……?」
『それがどうした』
「だって、結構距離があるじゃないですか」
叔父さんの店から会社までは、電車で三十分程かかる。それに、移動するならわたしの方が都合がいいのではないだろうか。
『桑原が来ないつもりなら、俺がそっちに行くっていうだけだ』
「そんなつもりじゃ……」
言いかけて、それじゃどういうつもりだったのかと自分を問いただす。
美杉さんと一緒にいるところを目撃した時は、難波さんに会いたくないと思っていた。
でも今は――。
『……桑原の顔が見たいんだよ』
「……え……?」
『会いたい、って言ってるんだ』
少し投げやりな口調だったのは、照れ隠しだと思ってもいいんだろうか。
――もう、自分をごまかせない。
わたしも、難波さんに凄く会いたい。
「……難波さんの家の最寄り駅は、どうですか」
彼の家の最寄り駅は、会社と叔父さんの店のちょうど中間にある。お互いで移動すれば時間も短縮できると考えての提案だったのだけど……。
もしかしたら、いや、もしかしなくても、わたしはとんでもないことを言ってしまったんじゃないだろうか。
『……わかった』
難波さんの返答に少し間があったことは、もうこの際、気にしないことにした。
電話を切る前からわたしの足は勝手に動き出していた。エレベータを降りて警備室のある会社の裏門を抜け、わたしは早足で駅までの道を急いだ。