甘い恋飯は残業後に
――『桑原の顔が見たいんだよ』
――『会いたいって、言ってるんだ』
頭の中で繰り返し難波さんの声が再生される度に、口許が緩んでしまう。そして緩んだ口許をキッと真横に引き締める度に、浮かれてはいけないと自分に言い聞かせる。
まだ、何もはっきりしないのだ。まだ、何も。
はっきりしたとして、自分はどうしたいのか。答えを見つけられるかどうかもわからない。
わたしはいつまで、こんなことを繰り返すんだろう。
誰かに話せば、勇気をもって一歩踏み出さなければ何も変わらないよと言われるに違いない。そんなのはもう、どこかで何べんも見たり聞いたりして嫌というぐらいにわかっている。
考えてみれば、わたしはいつだって自分のことだけでいっぱいいっぱいだ。
さっき青柳は「今だったらもっとわかってやれたかもしれない」と言ってくれたけれど、わたしのほうはどうだったんだろう。青柳のことをちゃんとわかろうとしていたんだろうか。
多分、自分のことをわかってもらいたいと、求めてばかりだったような気がする。