甘い恋飯は残業後に
「怪我はないか?」
「……大丈夫です」
怪我はなかったけど、男に触られた口許が気持ち悪くて仕方がない。意識したら尚更、我慢出来なくなってきた。
わたしは難波さんに少し待ってもらい、バッグからポケットティッシュを取り出して、柱の陰に隠れるようにして唇を強く拭った。
再び歩き出してから、わたしは肝心の難波さんにお礼を言っていなかったことに気づく。難波さんを見ると、彼もわたしの視線に気づいてこちらを向いた。
「あの……ありがとうございました」
「何だ、改まって」
「だって、難波さんが来てくれたおかげでわたしは助かったんですから……」
難波さんは何故か、不服そうな顔をしている。
わたしの気持ちが伝わらなかったんだろうか。
「こういうことは前にもあったんですけど、その度すんなりかわせていたから、今回も大丈夫だろうと甘く考えてたんです。だから、難波さんが来てくれなかったらって思ったら……」
不安だったことを口に出したら、今更ながら足が震えてきた。かくんと膝が折れないように、足にしっかりと力を込める。
「ともあれ、難波さんが喧嘩に巻き込まれるようなことにならなくてよかった」
わたしは、男達が逃げていった時、一番に思ったことを素直に話した。こっちが悪くなくとも、警察沙汰になってしまったらいろいろと厄介だ。
「俺だって、やみくもに手を上げたりはしないよ」
「……そうですよね、すみません」
余計なことを言ってしまったなと後悔する。彼の口調は不機嫌なままだ。