甘い恋飯は残業後に


難波さんの家に近い出口は東口だったようだけど、飲食店が多いのは西口だからと、わたし達は西口から外に出た。駅を出る時、さっきの男達のことが頭をよぎって、一瞬足を踏み出すのが躊躇われた。

待ち伏せしていないとも限らない。肩に自然と力が入る。


「……掴まってろ」

難波さんはそう言って、自分の左腕の肘の辺りを軽く叩いた。

「……えっ?」

「いいから早く!」

勢いに圧倒されて、わたしは難波さんの左腕を掴む。サッカーの試合の時にユニフォームの半袖姿は見たことがあったけど、掴んだ二の腕の辺りは思っていたよりもがっしりとしていた。


「暑いかもしれないが、少しの間我慢しろ」

――もしかして、気づいてた……?

ほんの少し、躊躇っただけだったのに。


「難波さんの腕、汗ばんでますね」

「汗臭いとかいうなよ」

「言ったらどうなります?」

「俺が傷つく」

実際は全然汗臭くなかった。少しだけミントのような香りがしている。

わたしがこんな冗談みたいなことを言ったのは、そうでもしなければ気持ちが抑えられなくなってしまいそうだったからだ。

彼の腕を掴んでいた手に、少しだけ力を入れた。本当はしがみつきたい程の衝動に駆られている。


今、心に湧き上がっているこの感情がきっと“愛おしい”ということなのだろう。


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