甘い恋飯は残業後に
少し歩いて、駅のタクシープール辺りまで来てから、難波さんはふいに立ち止まった。さっきの輩がいたのかとドキリとする。が、見回してみてもそれらしき姿は見当たらない。
怪訝に思って彼の方を見ると、難波さんは真正面を向いたままおもむろに口を開いた。
「……俺の家に来るか?」
どくん、と心臓が大きく跳ねる。
わたしが『難波さんの家の最寄り駅で』と言ってしまった時から、展開のひとつとしてあり得るかもしれないと覚悟はしていたことだ。
動揺したのが腕を掴んでいたわたしの手から伝わったのか、彼は苦笑いを浮かべた。
「もしかしたら、この辺の店だと桑原が落ち着いて食事出来ないんじゃないかと思っただけだ」
「あ、ああ……そう、でしたか」
言ってから、この答え方はまずかったと気づく。何を考えたのか、わたしの頭の中身をばらしてしまったも同然だ。
二十七にもなって、ただ「家に来るか」と言われただけでこんなにガチガチになるなんて、本当に情けない。もっと冷静にならなくては。
「そんなに怯えなくとも大丈夫だ」
「怯えてなんて……」
ばつが悪くて俯くと、ふっと小さく笑った声が聞こえた。