甘い恋飯は残業後に


「男は繊細で傷つきやすいからなぁ」

叔父さんは美桜ちゃんの言葉を聞いて困ったように笑ってから、わたしの前にことり、と料理を置いた。

「ほら、ご所望の洋風モツ煮」

「あ、今日はバケット付きなんだ」

「それは俺の奢り。ったくお前は、こればっかり頼むなよ。俺も毎回大変なんだぞ」

叔父さんは不満を漏らしつつも、リコッタチーズのサラダも付けてくれた。


小さい頃、父親の酒の肴だったモツ煮を貰って食べてから、モツ煮はわたしの大好物。

社会人になってから、一度だけ会社の人の前でモツ煮を頼んだら「桑原さんって、顔に似合わずそういうオヤジくさいものを食べるんだ」と言われて、それから何となく人前では頼みづらくなってしまった。


コンビニのお惣菜じゃない、ちゃんとしたモツ煮がどうしても食べたくて、叔父さんに頼みこんでこれを特別に作ってもらっている。

「洋食屋の俺にモツ煮を頼むなよ」と最初は渋られたけど、このデミグラスソースで煮込んだ洋風のモツ煮は、世界のどんな料理よりも一番美味しいんじゃないかと思う。


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