甘い恋飯は残業後に


「……見たんです。八時前、カフェで難波さんが美杉さんと一緒にいるところを」

彼は一瞬、驚いた顔を見せたものの、すぐにさっきの“にやり顔”に戻った。

「なるほど。それで高柳さんの店には行かずに、ふてくされて会社にいたって訳か」

「別に、ふてくされてなんか……!」

見事に図星を刺されて、ばつの悪さに視線を逸らす。


「俺が何故美杉と会っていたのかは、いずれわかることだ」

この期に及んでまだはぐらかすつもりだろうか。
わたしは顔を上げ、難波さんを見据えた。

「今は、教えてくれないんですか」

「……申し訳ない」


『悪い』でも『ごめん』でもなく『申し訳ない』。

難波さんはきっと、敢えてその言葉を使った。裏側に潜んでいる何かを察してほしい、とでもいうように。こういう状況でもそれぐらいは冷静に考えられる。

それに難波さんという人間は、今まで見てきた限りお世辞にも器用とは言い難い。疚しいことをしていたなら少しは態度に表れそうなものだけど、彼は瞳を揺らすことなくわたしを真っ直ぐに見つめている。


「信用できないか……?」

難波さんは探るような表情でこちらを見ている。わたしはその視線から逃れようと、床に敷いてあるラグに視線を落とした。


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