甘い恋飯は残業後に
「どうやら、ネット上に情報漏洩させたらしくて」
「ネット上ってことは……ウイルス感染とか?」
「違うみたいだね」
外出から戻ってきた大貫課長が、自分のデスクに鞄を置きながらわたし達の会話に交じってきた。
「俺も今そこで二課の部長から聞いたんだけどね。本当はまだオフレコだと上から言われていることをあの人がペラペラ喋っちゃってるみたいだから、水上さんも不用意に話を広めないで」
いつもは小言を言うタイプではない大貫課長が、めずらしく課長の顔で水上ちゃんを諌める。彼女はハッとして「すみません」と小さく頭を下げた。
「ふたりとも、ちょっとこっち」
大貫課長はオフィス内にあるミーティングスペースにわたし達を呼んだ。課長は扉にカチリと、厳重に鍵をかける。
「桑原さんも水上さんも『Caro』に関わりがあるから話すけど、さっきも言ったようにこの話はまだオフレコだから、ここだけの話にしておいて」
大貫課長の静かな口調に、ただ事ではない気配を感じた。「わかりました」と答えると、水上ちゃんもわたしに続いた。
「情報漏洩は、故意らしい」
「えっ」
驚いた声を上げたのはわたしだけだった。水上ちゃんはもう知っていたのだろう。
「今年度を迎える前に、『Caro』のオリジナルブレンドの配合とか、豆の卸値が匿名掲示板に書かれていると、どこからか情報提供があったらしいんだよ。その犯人が三浦係長だったようでね」
息を呑む。
豆の卸値も流れてはいけない情報ではあるけど、オリジナルブレンドの配合と言えば、店の命にも等しい。どこのお店も、何度も試飲を重ねて苦労して作り上げているものだ。何故そんな、お店の生命線のような情報を流出させたのか。