甘い恋飯は残業後に
「やっぱり出ないか……」
がっかりしながらも引き返すことはせず、わたしはそのままマンションまでの道を歩く。
彼の部屋の前まで行って、ドアホンを押してみた。やっぱり反応はない。
「どうしようかな……」
駅に戻ってそこで待つことも一瞬考えたけど、またこの間のように誰かに絡まれても嫌だ。
わたしは仕方なく、ここで難波さんを待つことにした。ドアの前にしゃがみ込んで、膝に置いたバッグを抱きしめるようにして丸くなる。
難波さんより先に、ここに他の部屋の住人が来たら不審に思われるかもしれない。よし、その時は立ち上がって駅に向かおう。そう心に決めたら、少し肩の力が抜けた。
しばらくバッグを抱きしめたまましゃがんでいると、階段から足音が聞こえてくる。
――どうしよう。
いざその状況になって、緊張が身体全体に走る。
刹那、カツンとその人物がこのフロアに足を降ろしたような音がした。
恐る恐る顔を上げて、階段の方を見る。
「……万椰」
「難波さ……うっ」
立ち上がりかけると、足に鈍い痛みが走った。しばらくしゃがんでいたせいで痺れたのか、自分の足が棒になったような、おかしな感覚になっている。
「何やってるんだ?」
難波さんを見れば、わたしに手を差し伸べながらクスクスと笑っている。
「ずっとしゃがんでたから足が……って、そんなことより」
難波さんの手を取ってきちんと立ち上がり、わたしは彼を見据えた。
「連絡……待ってたんですよ」
そう言ったら、何だか泣きそうになる。難波さんは困ったように笑みを浮かべて、わたしの髪を撫でた。