甘い恋飯は残業後に
「悪かった。家に帰って落ち着いてから連絡しようと思っていたんだ」
難波さんに会えたことで、冷静さを取り戻した頭で改めて見れば、彼の顔は昼の時よりも疲弊しているように見えた。
――何、やってるんだろう。
我に返る、とはこういうことだ。
わたしは、自分の不安を解消したいだけの為に、家にまで押しかけてしまったことを酷く後悔した。
髪を撫でる彼の、手の重みを感じる。その重さに押されるようにわたしは俯いた。
「とにかく中入れ」
「……いいんですか?」
「いいんですかも何も、そのつもりで来たんだろ?」
難波さんはドアを開けながら、不思議そうな顔をこちらに向けた。
それは、確かにそうなんだけど……。
「……お邪魔、します」
わたしはばつの悪さを無理矢理呑み込み、小さくなりながら難波さんの家に入った。
難波さんの部屋は、数日前と何ら変わりなかった。というより、そもそも生活感がない。どれだけ忙しくしていたのか――そう思ったらますます居た堪れなくなる。
「取りあえずそこに座ってろ」
難波さんは持っていた鞄をぞんざいにソファーに放ると、奥の部屋に行ってしまった。
わたしは、座面と背もたれの間で落ち着かない格好になっていた鞄をソファーに座らせてから、その横に腰かける。
――と、こんな時だというのに、あの晩のことを思い出して胸がきゅっと甘く鳴いた。
全く、わたしは何を考えているんだろう。もう心の中は不安と緊張と、いろんな感情が入り乱れてぐちゃぐちゃだ。