甘い恋飯は残業後に
「こちらでよろしいですか?」
程なくして、タクシーの運転手が飲食店の前の路肩に車を停めた。運転手も心得ているのか、ここは露骨な場所に入るひとつ手前の道だ。
今から“する”と思われているんだろうな。
そう考えると、猛烈に恥ずかしくなってくる。
車を降りて、難波さんは無言でわたしの手を取った。さっきとは違い、わたしに歩調を合わせて歩き出す。
鼓動は既にバクバクと大きな音を立てている。
どうしよう。自分で言ったことだけど、逃げたくなってきた。
「……大丈夫か」
「……えっ」
緊張が、手から伝わってしまったんだろうか。
「無理しないで、今日は帰るか?」
「……無理じゃないです」
さっき、一歩踏み出すと決心したばかりじゃない。
わたしが難波さんの手をぎゅっと握ると、彼はまた無言で歩き出した。
入ったのは、いかにもという外観のところではなく、カフェと見間違えそうなおしゃれなデザインホテル。
難波さんがいろいろと手慣れた様子なのが幾分引っかかったものの、今はそんなことを気にしている余裕はない。元カレと寸前までいった時は彼の部屋でだったから、こういう場所に来たのは初めてだ。