甘い恋飯は残業後に


*


――日曜日。わたしは球技場に来ていた。

難波さんから昨日の朝、サッカーの試合があると聞かされたからだった。

今日も難波さんと兄貴のコンビネーションは完璧で、女性達からはこの間よりも大きな歓声が上がっていた。

試合は二対〇で難波さん達のチームが勝利。どうやら次は決勝らしい。

難波さんに声を掛けてから帰りたいところだけど、兄貴に見つかるといろいろと面倒だ。その辺はきっと、難波さんも理解してくれるに違いない。


観客席の階段を降り、球技場の外へ出た。午後三時過ぎだというのにまだ太陽はギラギラと鋭く熱を放っていて、少し動いただけでも汗が噴き出してくる。

眩しさに目を細めながら、注意深く辺りを見回す。見知った人間が誰もいないことを確認してから歩き出した――その時だった。


「万椰―!」

背後から、わたしを呼ぶ声がした。

――嘘、誰もいなかった筈なのに。それに何故、バレたんだろう。

ため息をひとつ吐き、仕方なく後ろを振り返ると、思ったとおりの姿がそこにあった。

眉間に皺を寄せた兄貴が、こちらに駆け寄ってくる。


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