甘い恋飯は残業後に
「何、帰ろうとしてんだよ」
「……いいじゃない、別に」
「よくねーよ。祝勝会、お前も来い」
そう言ってわたしの腕を強引に引っ張り、会場の方へと向きを変えた。わたしは引きずられまいと必死に踏ん張る。
「ちょ、っ……今日は行かないってばっ」
兄貴は手を緩めてわたしを見据えると、ニヤリと厭らしい笑みを浮かべた。
「聞いたぞ」
「……何を」
「バーサンと付き合ってるんだって?」
――ああ、だから見つかりたくなかったのに。
視線を逸らしてから「……それが何?」と冷たく言い放ってやる。兄貴のことだから、どうせからかうつもりなんだろう。
「いや、本当に付き合うことになったんだなーって。バーサンから“もしも、俺がお前の妹と付き合うことになったらどうする”って訊かれた時は、まさかと思ったからさ」
いつかの『千里にはもう話してある』という難波さんの台詞が脳裏に浮かぶ。
彼は兄貴にそんなことを訊いていたのか。
「……それに対して、兄貴は何て答えたの?」
「聞きたいか?」
にやけ顔で勿体ぶられて、イラッとする。
普段ならこんなふうに言われれば、じゃあいい、と話を切ってしまうところだけど、やはり答えが気になる。わたしはやむなく頷いて見せた。