甘い恋飯は残業後に
「もしもバーサンが義理の弟になったらって考えると、ちょっと複雑な気持ちになるけど、って言った」
まさか、とんでもなく先走ったことを言われていたとは。
思ってもみなかった答えに、顔が熱くなってくる。わたしは汗を押さえるふりをして、ハンカチで顔を隠した。
「でも俺は、バーサンなら万椰を任せてもいいと思ってる」
「何よ、それ……」
「俺はこう見えても、妹思いの兄貴なんですよ」
急に変な敬語を使われて、困惑する。本気で言っているのか、冗談なのか。
兄貴はふいとわたしから視線を逸らし、「はー」と長く息を吐いた。
もしかしたら、自分で言ったことに照れているのかも……?
そう考えると、いつもは憎らしい兄貴が少し可愛く思えてくる。
「ああそうだ。妹思いの兄貴として、もうひとつ教えといてやる」
そう言うと、兄貴は辺りを見回してからわたしの耳許に顔を寄せた。
「バーサンが『ヘタクソ』って言われてフラれた話、万椰もあの時聞いただろ?」
「……うん」
「あれ……実は俺のせいなんだ」
「はあ?!」
どうしてそれが兄貴のせいになるのか。素っ頓狂な声を上げたわたしに、兄貴は「しーっ」と言いながら人差し指を自分の口の前に立てた。