甘い恋飯は残業後に
あの男は有無を言わさず無理矢理わたしを連れ出し、お店に着く寸前になって初めて『昼時間だけ店のヘルプに入る』と言った。
店長の様子からして、通常通り二課へヘルプ要請の連絡を入れたことは間違いなさそうだ。それなのに、どうして部長である難波さんが手伝うことになって、更にわたしが駆り出されなくてはならなかったのだろう。
どうにか仕事にも慣れてきた頃、ランチタイムが終わりを迎えた。中腰の姿勢になることが多かったから、少し腰が痛い。
店の隅で、腰に手を当ててこっそり伸ばしていると、店長が笑顔で声を掛けてきた。慌てて、体勢を戻す。
「いやあ、助かりました。本当にありがとうございました」
「こういうことは不慣れなもので、かえって足手まといだったかもしれませんが」
この店長に罪はない。
わたしは努めて冷静に、そしていつものように謙虚さを忘れず笑顔で対応する。
「桑原さんのような素敵な女性が一緒に働いて下さって、スタッフの男共はいつもよりやる気がみなぎってましたよ」
「そんな……」
わたしは笑ってその場をごまかし、店長に会釈をしてからロッカー室に向かった。
こんな会話が女性スタッフに聞かれようものなら、敵意を剥き出しにされて、今後の仕事がやりづらくなるのは目に見えている。