甘い恋飯は残業後に


「いい」

「でも……」

「昼飯を奢ろうとしたのに逃げられたからな。ここは素直に奢られとけ」

難波さんはそう言って薄く笑みを浮かべた。

わたしが水上ちゃんみたいな人間だったら、どんな人にでもにっこり笑って「ご馳走様です」と可愛く言えるんだろうけど……。


「……なんだ。俺に奢られるのは嫌か?」

「……いえ」

「じゃ、そんな不服そうな顔するなよ」

顔に出てしまっていたか、と今更俯く。難波さんはわたしの肩をポンと叩いてから「さて、どっちに行くんだ?」と聞いてきた。

どうしてもこの状況からは逃れられないらしい。
わたしは観念して「右です」と答え、難波さんの隣を一歩遅れて歩く。

仕方ない。さっき、ご馳走になったお礼も言いそびれてしまったし。


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