甘い恋飯は残業後に


「おねーちゃん、美人だねぇ。歳いくつ?」

ふたり掛けの席にコーヒーを持って行くと、わたしはふいに男性客に腕を掴まれた。


――嫌な予感が、当たってしまった。

コーヒーをテーブルに置いた時、何となくお酒臭い気がしたのだ。さしずめ、ゆうべ接待か何かで飲み過ぎたというところだろう。

わたしの手を掴んでいるのは五十代半ばぐらいの男性。もうひとりはその人よりも幾分若く見える。


「すみません、ちょっとそういうことは……」

ここは飲み屋じゃありませんから、と喉まで出かかった。あぶないあぶない。

「なんだよ、歳ぐらいいいだろう?」


わたしに話しかけているのは腕を掴んでいる男性だけだけど、もうひとりもそれを窘める気配はなく、こちらを見てニヤついている。

以前、叔父さんの店を手伝った時も似たようなことがあった。わたしも若かったから、その時は後先を考えずぞんざいに扱って、結果、叔父さんに迷惑をかけることになってしまった。


苦い記憶が、じわじわと呼び起こされる。

トラブルになってはいけない。もう、絶対に間違えないようにしなくては。


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