甘い恋飯は残業後に
「――お客様」
ぐるぐる考えを巡らせていると、ふいに後ろから声が掛かった。
「こちらに何か、不手際でもありましたでしょうか?」
振り向けば、そこにはカウンター内にいた筈の難波さんが立っていた。
「……いや、別に」
おねーちゃんにちょっかい出してただけだとはさすがに言えないだろう。男はわたしの手を離し、ばつ悪そうに難波さんから視線を逸らした。
「何かあれば、またお申し付け下さい。ではどうぞ、ごゆっくり」
難波さんに続いてわたしも頭を下げ、テーブルの前から移動する。
「……あの、ありがとうございました」
誰にも会わないうちに、とフロアから出たところで難波さんの背中に声を掛けた。
心臓がまだ、ドキドキと大きな音を立てている。手首にはあの男性の手の感触が残っていて気持ちが悪い。いい歳して、ああいう場合の受け流し方もわからないなんて、本当に情けない。
難波さんはロッカー室の手前にある倉庫へ入ると、後ろ手でぱたりと扉を閉めた。