甘い恋飯は残業後に


その後はパスタ。少な目に盛られたセミドライトマトのフジッリ、ジェノベーゼのリングイネッテをふたりでシェアして食べ、最後は牛肉のタリアータ。ミディアムレア程度に焼いた薄切りステーキに野菜が添えられたもの。

「あー、午後の仕事放棄して、もうワイン飲んじゃいたい!」

タリアータをひと口食べ終えたところで身悶えしてしまう。だってこんなの、ワイン好きには拷問だもの。

ふと見ると、難波さんはこちらを見てニヤリと笑みを浮かべている。


――しまった。

あまりにおいしい料理ばかりだったから、今誰といてどういう状況かなんて、すっかり吹っ飛んでしまっていた。居た堪れず、水に手を伸ばす。


「仕事放棄はするなよ」

「……わかってます。ただ、そういう気分になっただけで……」

俯いて、モゴモゴと口の中で言葉を濁した。難波さんがまだこちらを見ているのが気配で分かる。ひたすら恥ずかしい。

でもよく考えれば、叔父さんの店での醜態も見られていたようだし、さっきは不覚にも泣き顔まで見られてしまった。焦って取り繕ったところで、もう今更かもしれない。


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