甘い恋飯は残業後に


……そう言えば。

難波さんはわたしがどうして泣いたのか、聞くつもりはないんだろうか。


「冷めるぞ」

「……はい」

大人なんだから、当然と言えば当然だ。わたしだって、無思慮に相手の事情を聞き出そうとは思わない。

でも――どういう訳か、少し息苦しい。

普段なら、理由を聞かれない方が助かるというのに。


「……あの」

もうひと口水を飲みこんでから、わたしは思い切って切り出した。


「聞かないんですね」

難波さんはタリアータを頬張りながら、じっとこちらを見つめている。

「……さっき、わたしが何で泣いたのか」

「聞いてほしければ聞くけど」


――なんだろう、この痛みは。

「いえ……別に聞いてほしいとかでは……」

ちくりと、胸の奥に小さな痛みが走った。小さいけど、尖った痛み。

そのまま黙ったわたしの目の前の皿に、何故か一切れ、タリアータが置かれた。


「うまいものを食ってる時は、誰でも幸せになれる。さっきこれをひと口食った時、桑原は泣いたことを忘れてただろ?」

全く、そのとおりだった。
わたしは決まりの悪さを感じて、目を伏せたまま小さく頷く。


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