薬指の約束は社内秘で
いや、言ってやりたい心の叫びをグッと堪えた。

だって彼のいる経営統括室は、社内の精鋭部隊を揃えて立ち上がったばかりの新部署だ。

将来的には経営から営業すべてを取り仕切り、人員整理にも関わっていくとの噂もある。
(一度睨まれるとリストラ対象になるとか、賞与の査定に響くとかなんとか……)

ははっ。くだらない噂だし。生意気な態度を取ったくらい、問題ナイナイ!

心で、「あははー」と高笑いを上げつつも、背筋が凍りついてしまう平社員という立場が悲しい。

それにしても、夢見る女子の婚活を笑うなんて。
一生独身で、茶飲み友達もいない寂しい老後を過ごしてしまえ!

ささやかな抵抗とばかりに呪いをかけてやると、彼は何かを察したのか私との距離を縮めてきた。

彼の整髪料の香りが鼻を掠めて、切れ長の瞳が至近距離に近づくと、悔しいけど少しだけ胸が震える。

見つめ合う一瞬。それまでとは違う柔らかい声が頬に触れた。


「さっきは悪かったな」

それは課長の八つ当たりのこと?

不意打ちの気遣いに思わず言葉を失くすと、「頑張れよ」と有難い声までかかる。
ゆっくり引き上がる口角に、「実はいい人?」と思い直したのは、ほんの一瞬のことで。

「せいぜい若作りして気合入れろよ、婚活」

再び唇の端を釣り上げた意地悪な笑みに、もはや言い返す気力はなかった。
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