薬指の約束は社内秘で
ここに来る直前に、「どうしよーう」なんて可愛らしく困り果てていた自分に、「全力で逃げろ」と教えてやりたい。

ニヤリと唇を釣り上げる極悪人の微笑に血の気が引く。ソファーから慌てて立ち上がろうとした私の背後で、「ぷっ」と吹き出す音がした。

「藤川さんって。聞いてた通りに、可愛い人ね」

「可愛いなんて一言も言ってないだろ。25にもなって指をくわえて運命の恋を待ち続けてる、ノーストレス人生が羨ましいお気楽な奴だ」

なんて、血の気の失せた私の隣では、「ふふふー」「はははー」と笑い合う美男美女が一組。

あれあれー、なんてお似合いなんだろう。新車のCMに、ぜひぜひどうですか? なんて! 呑気に見とれてる場合じゃないって、私!!

「ちょっと、冗談ですか!?」

「冗談でもない。何かあったら体を張って守れよ?」

噛みつくような勢いで立ち上がるも、これもまたしれっとした口調で返されてしまう。
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