薬指の約束は社内秘で
そんな醜い心中を1ミリも察しない美希ちゃんは、楽しげに声を弾ませる。

「葛城さんって転職組らしいんですけど。ドイツ支社にいた頃、R社との共同開発の件に尽力したらしいですよ」

「へぇー」と気のないフリをしてみたけど、ドクンッと鼓動が反応したのは否定できない。

ヨーロッパにシェアがありデザイン性の良さが評判のR社との共同開発の新車は、業界の注目度も高い。
その新車販売の社内プレゼンは私が任されたもので、販売部営業1課から3課で争われることになっている。

今回の共同開発は一度破談になりかけたって噂があったのに、そんなにすごい人なんだ。

「それと今日の午後、隣の課長ずっと不機嫌でしたけど。あれって、葛城さんに不明瞭な交際費を突かれたらしいですよ」

「そうなんだ」

「ずっと噂あったけど専務の子飼いで経理も追及できなかったですもんね。でも、現場はコストダウンを強いられてるのに見逃せないって強く言ってやったらしいです」

「へぇー……」

あの怒鳴り声の前にはそんなやり取りがあったのか。

それならば、確かに彼の言う通りだ。

長年国産自動車メーカーとして業界のトップを走ってきたこの会社も、不景気で製造現場や本社にもコストダウンが強いられている。そんな中一部の人間だけが甘い汁を吸うなんて、許されていいわけがない。

噂通りに、なかなかやるんだなぁ。

課長と対峙していた涼しげな顔を思い出していたら、化粧直しを終えた美希ちゃんが身を乗り出してきた。
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