薬指の約束は社内秘で
「ところで。実際に話してみて噂通りって感じでしたか?」

「噂?」

「知らないんですか? 仕事に厳しく数字でしか評価しない。無駄を嫌う冷徹な男って有名です。それと、これはトップシークレットなんですけど」

そこで言葉を切った彼女が周りを気にするようにぴったり体を寄せてくる。

トップシークレット?

穏やかではない言葉にゴクリと喉を鳴らすと、美希ちゃんは声をひそめるように言った。

「なんと! 社食のメニューが最近減ったのも、無駄を嫌う葛城さんが絡んでるって噂なんですよぉー」

「ははっ。まさかぁー」

な・ん・だ、ソレ? 

肩すかしともいえるトップシークレットとヘンテコな噂を「ないない」と笑い飛ばすが。
大好きな杏仁豆腐がなくなったのも奴のせいかと思ったら、新たな呪いをかけたくなった。

「まぁ、とにかくですよ。葛城さんに睨まれるとリストラされるって噂なんです。でも私ぃー、葛城さんならリストラされてもいいかなぁ」

「えぇっ、そうなの!?」

「はい。それで永久就職お願いしちゃったり?」

冗談なのか、本気なのか。美希ちゃんはマスカラを綺麗に塗ったまつげを伏せて頬を可愛らしく染める。
(今日は本当に、ツッコみどころに困るなぁ)

「だってぇ。あの冷徹な感じがゾクゾクしませんか?」

「いや、まったく。趣味悪いよね、美希ちゃん」

「そうですかぁ? だって滅多に見せない笑顔を独り占めできたら、きっとドキドキですよぉ」

「そうかなぁー」

納得できずにいたら、「そうですよぉ」と美希ちゃんはこの後あるらしい合コン仕様の愛らしい笑顔を残して、更衣室を後にした。
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