薬指の約束は社内秘で
館山さんは、本日の新郎で葛城さんのご友人だ。

私の問いかけに田村君は、「よくぞ聞いてくれました」とばかりに得意げな顔で胸を反らす。


「俺は部長に頼まれて通訳に呼ばれたんだよ。藤川もドイツ語、結構できるんだろ?」


あぁ、そっか。前に喫煙所でそんな話をしてたっけ。

プレゼン前に彼が汚い言葉で同僚っぽい男性と話していたのを思い出す。


「私、ドイツ語は簡単な会話しかできないんだ」

「えぇっ! あぁ。悪い。経営統合室に呼ばれたくらいだから、ぺらぺらなのかと思ってた」


わざとらしく驚いた後に、一瞬見せた勝ち誇った顔。

(前にも思ったけど、本当分かりやすいな……)


少しだけ悔しいなって思うけど、それは彼の努力があってのことだから。

部長に指名されるまで努力を続けた彼をすごいと思うし。

私も、もっと頑張らなきゃって素直に思った。


そんな田村君が部長から手招きで呼ばれ、「はい」と明るい返事で私の前から走り去る。

部長が手招きした先には、海外の経済紙によく顔写真が載っている得意先の姿があった。
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