薬指の約束は社内秘で
「ひょ?」

顔の前で小さく手を掲げる部長に変な声が漏れた。

ちょっと待ってください! そんな「助かったぁ」みたいな顔をされても困りますって!!


心の中で巨大なバツマークを作ると、「わかりました」と背後からそんな声が。

部長が助け船を求めたのは私ではなく、いつの間にか私の背後を取っていた葛城さんにだった。


葛城さんが部長に促されるまま彼の前に歩み寄り、簡単なドイツ語しか聞き取れない私でもわかるほどの綺麗な発音で話し始める。


今度は「欧州か!」とツッコミを入れたくなるような冗談でも言っているのか、強張っていた彼の顔も和らいでいって、すっかり機嫌を良くした彼と部長が名刺を交換しその場から離れると、

顔を歪ませた田村君に葛城さんがポツリと言った。


「あの人、少し耳と足が悪いらしい。ゴルフは前にやってたけど、いまはできない」


さっきは上手く聞き取れなかったけど、どうやらゴルフの誘いをしていたらしい。
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