薬指の約束は社内秘で
無言で廊下を進む葛城さんの歩みが少しだけ遅くなり、目の前にハンカチが差し出された。


「ありがとうございます」

綺麗にアイロン掛けされたそれを受け取り、葛城さんの顔を下から覗き込む。

黒い瞳と見つめ合う一瞬、
彼の唇が何か言いたげに動きかける。

でもすぐに瞳は逸らされて、彼の唇も言葉を発することなく閉ざされてしまった。




それからの葛城さんの行動は、実にスマートなものだった。

ホテルの人に事情を話して空いている控え室を用意して貰い、私にその場で待つように指示してから、彼は控室を後にした。



「それにしても田村君、やっぱり許せないよ」

一人取り残された室内で沸々と煮えたぎる負の感情を落ち着けようと、

ホテルの人が用意してくれたグラス1杯のお水を一気に飲み干す。


「あぁ、おいしい。生き返った!」
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