薬指の約束は社内秘で
愛美に聞いた時間よりだいぶ遅れて着いてしまったけれど、すでにカウンターで5杯目のカシスオレンジを注文し、それを口にしながら店内をぐるりと見渡す。

どうやら積極的に男性から女性へ声が掛けられているみたい。

薄暗い照明の下で楽しげに声を弾ませる若者達よ。
草食男子とか絶食男子とか言われている日本も、まだまだ捨てたもんじゃぁないんだね。

お姉さん安心したよ。これなら少子化の危機も大丈夫だね?
年金も貰えそうでよかったなぁ。

なんて、遠い未来を心配するよりも! 未だに誰からもお声が掛からないこの現状をどうにかしてよ、神様!

恨めしく天井を仰いでみる。もちろん状況は変わらない。
少し離れたところを見ると女性の輪まで出来ている。どうせ一人の男を奪い合ってるんだろう。

そんな中に飛び込む勇気は、もちろん、ない。

結婚式の準備で忙しい愛美が時間を作って、店の予約まで入れてくれたっていうのに。

『恋の始まりどころか女としての価値も終わってました……』

なんて報告をしたら彼女を落ち込ませてしまうだろう。

あぁ。愛美になんて言おう?

深くため息をついて肩を落としかけた、そのとき。
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