薬指の約束は社内秘で
いま履いているピンクベージュのローヒールは、お正月のセールで買った一番のお気に入り。

それが階段をテンポよくカツカツと音を刻んでいく。

天気予報が外れて濡れてしまったつま先にため息をつきながら、社長秘書から預かった書類に視線を落とす。

誰もいない階段の踊り場で、「あれ?」と思わず声が出た。

葛城さん宛の資料だけど……
まったく同じ書類が2部ある。これ、間違いだよね?

くるりと方向転換し秘書室のあるフロアに戻り、ついさっき閉めたばかりの扉にノックをしようとした、そのとき。

少し開いていた扉から予想外の光景と音が漏れ聞こえた。

「――んっ……」

厚い雲に覆われて薄暗い光が差し込む室内で、濃厚なキスを交わす男女からの甘い吐息。
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