薬指の約束は社内秘で
うわっ。こういうのってリアルであるのか。

ドラマでしかお目にかかったことのない『まさかのシチュエーション』に思わず息を呑む。

うん。ここは、時間を置いて、また出直そう。


気付かれないようにそろりと足を戻しかけたら、ヒールのかかとが廊下の絨毯に引っかかり、ズルッと一際強い音を響かせてしまう。

「しまった!」と心で叫んでも、もう遅い。

扉の隙間から硬直した頬をこちらに向けた女性は、ついさっき書類を私に手渡した社長秘書だった。

彼女は私と目が合うと抱き合っていた彼から体を離し、罰悪そうに瞳を伏せる。
そして扉の前で固まる私の横をすり抜け、秘書室を飛び出していった。

ものすごい勢いで立ち去った背中を呆然と見送っていると、

「いまのこと、誰かに話す?」

彼女とは違う余裕げな笑みが近づいてきた。
二重瞼の瞳を艶っぽく濡らし、色のついた唇を手の甲で拭ったのは、瑞樹だった。
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