薬指の約束は社内秘で
「瑞樹。いま、やりたかったことできてるの?」


やめておいた方がいい。

警笛に似た声がそう心を過るのに、踏み込んで聞ける権利なんてないと思うのに、競り上がる感情を止められなかったのは、

あの頃と違う瑞樹に何かを感じたからかもしれない。

新たな静寂が流れていき、瑞樹は小さく笑った。


「できてるよ。社長の息子ってモテモテだしね」

「そういうことじゃ……ないよ」


あの頃と変わらない柔らかい笑み。

でもどこか感情がないようなそれを見つめ返すと、私から少し距離を取った瑞樹から乾いた声が漏れる。


「この前は、大活躍だったね」

「大活躍?」

「先週あった結婚パーティー。あの日、俺も会場にいたんだ。用があって途中で帰ったけどね」


瑞樹は淡々と語った後で、聞き取れないほど小さく呟いた気がした。

それは、葛城さんを庇ったこと?

予想外の振りに困惑して「えっ」と声を詰まらせる。
瑞樹の視線が引き上がり、再び絡み合う瞳。

影がさしたように見えるそれに、鼓動がドクンッと強く脈を打つと、


「あと少し……だったんだけどな」

瑞樹は口角を少しだけ引き上げてみせた。
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