薬指の約束は社内秘で
ゆらゆらと揺れる意識の片隅で小さな女の子が泣いている。それは6歳になったばかりの私だ。
その場所はとても暗く寂しい場所だった。けれど、ちっとも怖くはなかったし心細くもなかった。



カーテンの隙間から漏れる細い光に瞳を開く。柔らかい毛布の感触に夢を見ていたことに気付いた。

幼い頃によく見た夢。ずいぶん久しぶりに見た気がする……
二日酔いで重くなった頭を振ると、愛美に言われた言葉が頭を過った。

『綺麗な思い出として残しておきたいだけじゃないかな?』

確かに、そうなのかもしれない。瑞樹との恋が終わった今、忘れなきゃいけない思い出なのかもしれない。

でもあの日の出会いがなかったら、私はずっと泣き虫でずっと弱いままだった。
だから辛いことがあったら思い出して、その度に元気をもらう。大切な思い出だ。

遠い日の記憶に思いを馳せると目頭が熱くなる。毛布を目元まで引き上げたところで「あれ?」と思った。

毛布の感触がいつもと違う。やけに毛並みが良い気がするのは気のせい? 
それとなんだろう。すごくいい香りがする。

いつもとは違う違和感にベッドから体を起こし、辺りを見渡す。

柑橘系の爽やかな香りが広さ充分のベッドルームを包み込み、強い陽光を浴びた高層ビル街が開放感のあるパノラマウインドウのカーテン越しから透けて見えた。

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