薬指の約束は社内秘で
葛城さんはそんな心の訴えを見透かしたように、顔を傾けながら楽しげに呟く。

「トン」

「えっ?」

それって、まさか――……


「豚」

「えぇ! 嫌ですよっ。やめてください!!」

「なんだよ? 俺が買うんだから、文句ないだろ」

「うぅ」

「二つ買うから、藤川も好きな文字入れていいぞ?」

葛城さんはそう言うと持っていたカップを棚に戻し、近くにあった買い物かごを手に取る。

買い物かごに在庫用のカップが入った箱を二つ入れた手がスッと私に伸びると、「行くぞ」とそのまま右手を取られて、「えっ」と思わず顔を引き上げた。

「なに?」

「いえ」

ちょっと意外だったから……
葛城さんって外では手とか繋がない人だと思ったから。

絡み合う指先が少しだけ照れくさい。

これって、恋人繋ぎっていうんだっけ?


恋人とかカップルとか、そんな言葉をいちいち気にしてしまう自分は、やっぱり頭にお花が咲いているバカップル丸出しなのだと思うけど。

結局、私が欲しかったマグカップをお揃いで買えることになったわけだし。
なんだかんだ言って優しいんだよね、葛城さんは。

(本気で『豚』を入れる気なのかは謎だけど)

指先から伝わる温もりを嬉しく思うと、あの日葛城さんの過去を語った松田課長の声が鼓膜の奥から響いてきた――
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