薬指の約束は社内秘で
「まだまだ母親に甘えたい時期だろうに。それなのに文句ひとつ言わずに、仕事に行く母親を見送る優生をね、大人びたしっかりした子だと思ってたんだけどね…」

そこで言葉を止めた課長は一度息をつく。トーンの落ちた声で話は続けられた。

「いつだったか僕の家に遊びに来たことがあって。手を洗うこともなく、『お昼寝する』って言って、ごろんと横になっちゃってね」


その様子に何かを感じた松田課長が葛城さんの様子を窺うと、安らかな寝息が聞こえてきた。

「気のせいだったのか」とホッと息をつき、用意した掛け布団を小さな背中に掛けたところで、布団から出ていた掌に複数の傷があることに気づいた。

『いじめ』という言葉が頭を過る。でも、それはすぐに――
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